衣服のこと

南船場店のクチノです。 ようやく秋らしく涼しくなったと思ったら、もはや冬の寒さ…。季節の移ろいを感じることが少ないまま今年は冬を迎えそうな気がします。鍋が美味しい季節ですね。

さて、今回のオトコメガネでは、服の持つ役割、服を通したアイデンティティについて、諸々の「衣服」に関するお話しをしていこうと思います。それでは服は元々どのようにして生まれたのか、まずは服の原点からスタートをしたいと思います。

服のルーツ

私たちの祖先でもある前人類(ネアンデルタール人など)は、主に狩猟から得られた動物の毛皮を身にまとい、防寒着などとして用いていたと考えられます。時代が過ぎ、私たちの直接の祖先でもある数千年前の“人間”達は文明を築き上げ、植物の栽培技術を習得し、得られた麻などの繊維を編むことで衣服として使い始めます。おそらく染色技術もこの時期辺りから生まれていたことでしょう。防寒や防御が目的ではなく、日常の様々な場面で着用する“衣服”として、バリエーションが生まれたのはこの時期からと推測されます。

ジェンダーを意識させるツールとしての衣服

服にまつわるエピソードでワタクシが面白いと感じたのは、アダムとイヴが出てくる旧約聖書の創世記の一部です。エデンの園に置かれた男性「アダム」と、女性「イヴ」が裸体の状態でお互いの性別を意識することなく、楽園で平和に暮らしているという物語の場面です。平和に暮らす中、邪悪な蛇が登場し、「絶対に口にしてはいけない」と神様から言われていた禁断の果実を、蛇が二人に対してそそのかし、その誘惑に負けた二人が果実を口にした瞬間、お互いが裸であることを初めて自覚し、イチヂクの葉で腰の辺りを隠します。それに気づいた神様からエデンの園を追放されるという話です。

この話の面白さは、人間らしさを言語や容姿ではなく「裸体」として表現したというところにあります。男女間において裸体をさらすことが恥ずかしいということは、言い換えれば衣服は “人間らしさを象徴するもの”として登場していることになります。  現在では性別差を感じさせないファッションスタイルもありますが、着用している衣服によって男女の違いを認識することが、まだまだ一般的ではないでしょうか。少し例えが長くなりましたが「男性」「女性」を認識させるものとして、衣服の役割は大きいように思います。

地位を意識させるツールとしての衣服

性別を意識させるツールとしての衣服。衣服には他にこんな役割もあります。 日本の飛鳥時代では、冠位十二階とよばれる上流階級における階級社会が設けられ、冠の色がその人自身の階級を表すIDとして機能していました。現在で分かりやすい例としては柔道の帯の色。帯の色によってその人の階級が一目でわかるようになっていて、これも一つのID的な役割です。服飾心理をついた映画「es」では、実験的に囚人と看守役を作り、着させる衣服によって性格が変わってしまうという、衣服のデザインによって自己意識が変わるという面白い内容の映画です。衣服には“その人が何者であるか”を知る役割や、地位を意識させる機能も備わっているようです。

さて、ここまでは少しお固い話をしてきましたが、ワタクシは良い服を着ることでテンションが上がったり、スーツを着ることで意識がビシっと締まったり、そういった感覚的な部分で、衣服自体に面白さを感じています(良い服とは何なのか、それは以前に書いたコラムを見て頂ければワタクシなりの価値観を感じていただけることと思います)。ワタクシはこうやってウェブでコラムを書いていますがそれだけではなく、自分の感じている服の面白さや良さを店頭に立って販売員として伝えられればと思って、日々を過ごしてきました。

男女を認識させるものとしての役割と、自分が何者であるかを表すID的な役割を担っている衣服。分析的に見ればそういう役割があるのでしょうが、自分が気に入った服を着る喜びや、素敵な服が見つかったときの嬉しさの方がよっぽど普通の感覚で、自分自身も気に入った服を着る楽しみにハマってしまった一人でもあります。気に入った服がどんな服か、それは各々で異なるでしょうが、ドアーズには様々ある服の中でも、ひと手間かかっている丁寧に作られたものや、企画者や生産者のこだわりを感じられる服が多いと思います。ベーシックで季節を問わず長く使えるもの、時代を超えて長く愛されてきたアイテムなど、そういった衣服を提供することで、皆さまに喜んでいただける「価値」を提供すること。それがドアーズの良さだとワタクシは思っています。

20回以上の連載をしてきたオトコメガネ。クチノの書くこのコラム、実は今回が最後となります。今までライター的な仕事をしたこともなく、服の知識もあまりない中で、皆さまに「楽しんで読んでいただけるコラム」を目指してきたつもりです。今まで書いてきたコラムで、ドアーズの価値観を少しでも感じていただけていれば幸いです。 今までお付き合いいただき、ありがとうございました。

ドアーズ南船場店 クチノマサユキ

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